渡邉高章(脚本・監督・編集)

◆もうひとりの主役「I forget」
私の作品にいつも知性と生彩を与えてくれる押谷沙樹さんが制作したこの楽曲は、例えるならば、深海のような手の届かない深さ、手垢の無い純度があって、今回この「I forget」から〈映画〉を生み出すことは、その音符で出来た魔法の絨毯に一人乗っけてもらって自由に上空から覗き込ませてもらったような気分でした。
◆脚本について
実は、楽曲からインスパイアされて物語を生み出すのは初めてではありません。(*1)
MV制作もそうですが、ヘッドホンで外の世界の音を遮断して、ひたすらリピート再生しながら文字を打ち続ける。こうして浮かび上がった言葉だけを信用して組み立てていく。今回もその方法で脚本を書きました。
特に押谷さんから楽曲のテーマや制作経緯、歌詞の意味などを教えてもらうことはありませんでした。ありがたいことに、最初から最後まで私のオリジナリティを尊重してくれたので、楽曲と対峙したことで生まれた最初のイメージを大事にしました。タイトル「I forget」は最初からついていたので、そのワードが持つ意味や文脈を想像して、結果、ここのところ私の創作テーマとなっている「別れ」の物語になったことは、言わば自然の流れでした。ただし、過去作とは異なり、今作では「出会い」も描いているところが決定的な違いと言えます。(*2)
◆キャスティングについて
キャスティングは主演の笈川健太さんをのぞいて、すべて私の過去作品で主演を務めてくれた方たちです。『くにこマイル』の大網亜矢乃さん、『川を見に来た』の本庄司さん、『そんな別れ。』の岡田彩さん、『◯◯の呟き』の阪上仁美さん、そして、『土手と夫婦と幽霊』、『別れるということ』の星能豊さんです。その中心に、以前映画祭で知り合い、出演された映画(*3)を見て感銘を受けた笈川健太さんを招き、スタートしました。皆さん、とても良い顔をしてくれましたので、是非とも俳優さんを見て欲しいと思います。
◆コロナ禍にて
2020年で映画を撮る以上、コロナ禍の状況を描かないのは嘘だと思いました。それでも恋愛ドラマの中で、主要人物たちがいつまでもマスク姿でいるのも不自然に見えてくる、そのへんのバランスが難しかったように思います。しかし、これから先、私たちはマスクや消毒無しの生活に戻れるのでしょうか、いや、難しいかもしれません。私の場合、テーマやストーリーにおいて「今」と切り離すことはできませんし、そうでなければならないと感じています。そういう意味で、今回コロナ禍でなければ生まれなかった映画とも言えます。(*4)
◆最後に
一つ追記します。「I forget」を生んだ押谷沙樹さん、ヒロインを演じた大網亜矢乃さん、本作プロデューサーの松井美帆は同年齢です。かつて彼女たちが25歳の時に製作した「鈴子の25歳」(*5)という作品でチームを組んだ以来、約10年振りの再結集となります。私は縁あって今回監督を務めることができましたが、彼女らの期待を裏切らぬようにプレッシャーを感じながら、完成までもう少し空中遊泳を楽しみたいと思います。
*1 以前ケミカルボリュームの1stアルバム全10曲から1話に2曲ずつ使用して全5話の音楽ドラマ『あかりのむこう』の脚本・演出を手掛けました。そういえば、この時も私の好きな灯台が出てきたっけ。あの時は剣埼灯台で、今回は湘南港灯台です。
*2 近作に「そんな別れ。」(2019)と「別れるということ」(2020)という短編映画があり、タイトルに「別れ」とあるくらいですからストレートに「別れ」を描いた映画です。
*3 その映画は、「第3回 渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保2019-20」のオリジナル短編映画「リッちゃん、健ちゃんの夏。」主演の笈川さんがとても良かった!
*4 ドラマ作品としては、本作はコロナ禍の影響で撮った初めての作品になりますが、子ども映画シリーズにおいては、子どもたちと『STAY HOME』、『いえにいる』『楽園の船』と3本のショートムービーを製作しました。
*5 『鈴子の25歳』(監督・脚本 松井美帆、音楽 押谷沙樹、主演 大網亜矢乃)、松井の監督第二作。
私の作品にいつも知性と生彩を与えてくれる押谷沙樹さんが制作したこの楽曲は、例えるならば、深海のような手の届かない深さ、手垢の無い純度があって、今回この「I forget」から〈映画〉を生み出すことは、その音符で出来た魔法の絨毯に一人乗っけてもらって自由に上空から覗き込ませてもらったような気分でした。
◆脚本について
実は、楽曲からインスパイアされて物語を生み出すのは初めてではありません。(*1)
MV制作もそうですが、ヘッドホンで外の世界の音を遮断して、ひたすらリピート再生しながら文字を打ち続ける。こうして浮かび上がった言葉だけを信用して組み立てていく。今回もその方法で脚本を書きました。
特に押谷さんから楽曲のテーマや制作経緯、歌詞の意味などを教えてもらうことはありませんでした。ありがたいことに、最初から最後まで私のオリジナリティを尊重してくれたので、楽曲と対峙したことで生まれた最初のイメージを大事にしました。タイトル「I forget」は最初からついていたので、そのワードが持つ意味や文脈を想像して、結果、ここのところ私の創作テーマとなっている「別れ」の物語になったことは、言わば自然の流れでした。ただし、過去作とは異なり、今作では「出会い」も描いているところが決定的な違いと言えます。(*2)
◆キャスティングについて
キャスティングは主演の笈川健太さんをのぞいて、すべて私の過去作品で主演を務めてくれた方たちです。『くにこマイル』の大網亜矢乃さん、『川を見に来た』の本庄司さん、『そんな別れ。』の岡田彩さん、『◯◯の呟き』の阪上仁美さん、そして、『土手と夫婦と幽霊』、『別れるということ』の星能豊さんです。その中心に、以前映画祭で知り合い、出演された映画(*3)を見て感銘を受けた笈川健太さんを招き、スタートしました。皆さん、とても良い顔をしてくれましたので、是非とも俳優さんを見て欲しいと思います。
◆コロナ禍にて
2020年で映画を撮る以上、コロナ禍の状況を描かないのは嘘だと思いました。それでも恋愛ドラマの中で、主要人物たちがいつまでもマスク姿でいるのも不自然に見えてくる、そのへんのバランスが難しかったように思います。しかし、これから先、私たちはマスクや消毒無しの生活に戻れるのでしょうか、いや、難しいかもしれません。私の場合、テーマやストーリーにおいて「今」と切り離すことはできませんし、そうでなければならないと感じています。そういう意味で、今回コロナ禍でなければ生まれなかった映画とも言えます。(*4)
◆最後に
一つ追記します。「I forget」を生んだ押谷沙樹さん、ヒロインを演じた大網亜矢乃さん、本作プロデューサーの松井美帆は同年齢です。かつて彼女たちが25歳の時に製作した「鈴子の25歳」(*5)という作品でチームを組んだ以来、約10年振りの再結集となります。私は縁あって今回監督を務めることができましたが、彼女らの期待を裏切らぬようにプレッシャーを感じながら、完成までもう少し空中遊泳を楽しみたいと思います。
*1 以前ケミカルボリュームの1stアルバム全10曲から1話に2曲ずつ使用して全5話の音楽ドラマ『あかりのむこう』の脚本・演出を手掛けました。そういえば、この時も私の好きな灯台が出てきたっけ。あの時は剣埼灯台で、今回は湘南港灯台です。
*2 近作に「そんな別れ。」(2019)と「別れるということ」(2020)という短編映画があり、タイトルに「別れ」とあるくらいですからストレートに「別れ」を描いた映画です。
*3 その映画は、「第3回 渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保2019-20」のオリジナル短編映画「リッちゃん、健ちゃんの夏。」主演の笈川さんがとても良かった!
*4 ドラマ作品としては、本作はコロナ禍の影響で撮った初めての作品になりますが、子ども映画シリーズにおいては、子どもたちと『STAY HOME』、『いえにいる』『楽園の船』と3本のショートムービーを製作しました。
*5 『鈴子の25歳』(監督・脚本 松井美帆、音楽 押谷沙樹、主演 大網亜矢乃)、松井の監督第二作。
押谷 沙樹(音楽)

この映画のタイトル「I forget」の楽曲が生まれたのは、今から2年ほど前になります。歌詞作りにはいつも苦戦ばかりしていますが、この曲はピアノを弾いているうちに音のイメージが膨らんできて、「持ち主不明の忘れ物」という言葉とメロディが自然と一緒になって出てきたのを覚えています。この楽曲は、これまで様々な共演者と演奏してきた曲ですが、自由なパートが多いため、毎回いろんな姿を見せてくれる楽曲です。そして今回は、さらにその姿が映画となってくれた事に大変嬉しく思っています。楽曲から、渡邉監督の手によってこのような素敵な作品が生まれ、またその作品を見てくださる方へと、羽ばたいてくれるように思えます。プロデューサーの松井美帆様、そして快く引き受けてくださった監督の渡邉高章様に深く感謝申し上げます。
コロナ禍の今年、私はライブやイベントの演奏、その他の仕事の数々がキャンセルになりました。何ヶ月も自宅で過ごしていたこともあり、今回の企画は、皆様と一緒にものづくりができる喜びに、改めてひとしお感慨深いものがありました。役者さんスタッフさんはじめ、ひとりひとりがそれぞれ自分の仕事を懸命に丁寧に取り組む姿に、情熱と愛情を感じました。ザンパノシアター様とは長くお付き合いさせて頂いていますが、素晴らしい方々との出会いに本当に感謝しています。
最後になりましたが、ライブ会場には渋谷の公園通りクラシックス様にご協力頂きました。オーナーの横田様に感謝致します。
ライブにお越し頂いた皆様にはエキストラ出演して頂き、心から感謝いたします。
出来上がった作品が皆様にどのように感じて頂けるのか、楽しみです。
是非ご覧ください。
コロナ禍の今年、私はライブやイベントの演奏、その他の仕事の数々がキャンセルになりました。何ヶ月も自宅で過ごしていたこともあり、今回の企画は、皆様と一緒にものづくりができる喜びに、改めてひとしお感慨深いものがありました。役者さんスタッフさんはじめ、ひとりひとりがそれぞれ自分の仕事を懸命に丁寧に取り組む姿に、情熱と愛情を感じました。ザンパノシアター様とは長くお付き合いさせて頂いていますが、素晴らしい方々との出会いに本当に感謝しています。
最後になりましたが、ライブ会場には渋谷の公園通りクラシックス様にご協力頂きました。オーナーの横田様に感謝致します。
ライブにお越し頂いた皆様にはエキストラ出演して頂き、心から感謝いたします。
出来上がった作品が皆様にどのように感じて頂けるのか、楽しみです。
是非ご覧ください。
大網 亜矢乃(俳優 / ヒロイン)

空白の2020年になってしまうのかと不安に感じていましたが この作品に参加できたことによって私自身も救われたと思っています。きっと皆さんも2020年の1年で何かに救われたり、救ったことがあるのではないかと思います。そんなあたり前のことを感じさせてくれただけでも今年の収穫ではないかと思っています。
世界もまだまだ先が見えませんが、音楽や映画や絵画という芸術の本気が見えてくる気がしてならないのです。疑問に思うことの大切さや、不安や怒り、空気、世間、まさに自分と他人との価値観が丸裸になっていくこの不安定な毎日。そんな人々の心に関わっていくのが芸術だとしたら いよいよ出番です!という声がどこからか聞こえてくるような、、と。
私は芸術の力を信じています。
音楽の押谷さんの音楽を聞くと思い出や風景が思い浮かび心がじんわりと温かくなり、プロデューサーの松井さんは毎回思いがけない発想と鬼の反射神経で勇気をもらいます。戦友でもある2人との縁に感謝し、多くの方にこの作品を観ていただきたいと思います。
世界もまだまだ先が見えませんが、音楽や映画や絵画という芸術の本気が見えてくる気がしてならないのです。疑問に思うことの大切さや、不安や怒り、空気、世間、まさに自分と他人との価値観が丸裸になっていくこの不安定な毎日。そんな人々の心に関わっていくのが芸術だとしたら いよいよ出番です!という声がどこからか聞こえてくるような、、と。
私は芸術の力を信じています。
音楽の押谷さんの音楽を聞くと思い出や風景が思い浮かび心がじんわりと温かくなり、プロデューサーの松井さんは毎回思いがけない発想と鬼の反射神経で勇気をもらいます。戦友でもある2人との縁に感謝し、多くの方にこの作品を観ていただきたいと思います。
笈川 健太(俳優 / 主演)

まず、一番最初に監督に出会ったのは数年前渋谷で行われていた小さな短編映画の映画祭でした。
その頃の僕は
”自分でも短編映画を作ってみよ!”
なんて言って自分で作ったボロボロの、つぎはぎだらけの、なんとも退屈な、最高に愛おしい人達と作った映画と呼ぶには気が引ける様な作品片手に色々な監督や関係者に売り込みまくってました。打ち上げ会場で必死に色々な監督に売り込みをしていた僕は、もれなく渡邉監督にも「facebookやってますか?」なんて聞いて無理矢理作品を送りつけたのを覚えています。笑
それから数年が経ち、自身が映画祭の仕事をした事をキッカケに渡邉監督と再会し、「Elephantsong -A Tokyo Couple Story-」
を観賞した時に素晴らしい作品だと思ったと同時に、主演の松井美帆さんの芝居の真実味に驚かされました。
今回はそんなお二人と作品作りをする事になり、やはり作品の持つ”ご縁”とゆう物を信じずにはいられません。
そしてこの自粛期間を通じて、人と距離を取ったり、まだ知らない新たな出会いをしていく中で、大きい括りにはなりますが”芸術”というものはどうしたって人の心を豊かにするのなんだと思えてなりません。
押谷沙樹さんの体が浮き上がってしまいそうになる心地良い音楽と、力強く愉快なスタッフ、キャストの皆さん、そしてそんな皆をまとめてくれた渡邉監督、松井Pのもと作った”I forget”が見てくれた方に何か一つ、なんでも良いです。何かひとつ触れ合える事が出来たなら、みんなで集まって作品を作って良かったね。と、言える気がします。
なんだか恥ずかしげもなく大それた事ばかり言ってますが、まずは、作品とお客様との出会うご縁を僕が一番楽しみにしています。
その頃の僕は
”自分でも短編映画を作ってみよ!”
なんて言って自分で作ったボロボロの、つぎはぎだらけの、なんとも退屈な、最高に愛おしい人達と作った映画と呼ぶには気が引ける様な作品片手に色々な監督や関係者に売り込みまくってました。打ち上げ会場で必死に色々な監督に売り込みをしていた僕は、もれなく渡邉監督にも「facebookやってますか?」なんて聞いて無理矢理作品を送りつけたのを覚えています。笑
それから数年が経ち、自身が映画祭の仕事をした事をキッカケに渡邉監督と再会し、「Elephantsong -A Tokyo Couple Story-」
を観賞した時に素晴らしい作品だと思ったと同時に、主演の松井美帆さんの芝居の真実味に驚かされました。
今回はそんなお二人と作品作りをする事になり、やはり作品の持つ”ご縁”とゆう物を信じずにはいられません。
そしてこの自粛期間を通じて、人と距離を取ったり、まだ知らない新たな出会いをしていく中で、大きい括りにはなりますが”芸術”というものはどうしたって人の心を豊かにするのなんだと思えてなりません。
押谷沙樹さんの体が浮き上がってしまいそうになる心地良い音楽と、力強く愉快なスタッフ、キャストの皆さん、そしてそんな皆をまとめてくれた渡邉監督、松井Pのもと作った”I forget”が見てくれた方に何か一つ、なんでも良いです。何かひとつ触れ合える事が出来たなら、みんなで集まって作品を作って良かったね。と、言える気がします。
なんだか恥ずかしげもなく大それた事ばかり言ってますが、まずは、作品とお客様との出会うご縁を僕が一番楽しみにしています。